奈良の木の良さとは

「吉野と暮らす会」の石橋さんに奈良の木の良さや特長についてインタビュー

密植でゆっくり成長する吉野スギ

密植でゆっくり成長する
吉野スギ

四角く製材されて出荷を待つ材木、原木のままの丸太など、さまざまな形の木が所狭しと積み上げらた貯木場。「この丸太で100年から120年くらいの樹齢です。木には、成長の早い丸太と成長の遅い丸太があるんですよ」と話すのは、吉野中央木材の石橋さんです。

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吉野林業の特徴は「密植」と呼ばれる植林方法。一般的な林業地では、1ヘクタール(100m×100m)に2000本程度の苗木を植えますが、吉野では、木の成長を遅らせるために、1ヘクタールに約1万本の苗木を植えます。加えて、木は光が当たるところにしか葉っぱを付けないため、密植することにより、節が少ない真っすぐな木に成長するのです。

吉野特有の土壌成分から、赤み部分(心材)も淡いピンク色をしている木が多く、木の香りがほどよく、色が染み出にくいことや、年輪が細かく、節が少ないといった特長から、日本酒の酒樽や仕込み桶として重宝されるようになった吉野スギ。

年輪の詰まっている、長い年月をかけて育った奈良の木は強度が高く、江戸時代から酒樽の樽丸用材として高く評価されてきました。酒樽を作るための材木を調達するのに地の利が良かった吉野では、需要のあるスギを植林するようになります。

 

吉野の木がDIY初心者にも扱いやすい理由

吉野の木がDIY初心者にも
扱いやすい理由

「節が少ない」「目が詰まっている」「色がきれい」な吉野スギは、建築用材としても人気があります。

「目荒な木は鉋(かんな)のかかりが良くないため、密度の高い奈良の木は削りやすいと言われます」と石橋さん。DIY初心者にとっても扱いやすい木といえるでしょう。

丸太を輪切りにして見たとき、木の皮に一番近い白い部分を白太、芯に近い赤茶色の部分を赤身と呼びます。

木は外側に年輪を重ねて成長していくため、細胞分裂の活動が減っていくと樹脂がたまり、木の色が赤く変色します。白太は、根から吸い上げた水分や養分を葉まで送りますが、赤身はすでに活動を終えているため、水分を吸収しません。

特に、赤身の部分が黒っぽいものは非常に水に強く、腐りにくいため、屋外で使用するのに向いています。逆に湿気の多い場所で白太を使う場合は、自然素材のオイルなどを塗っておくほうがいいでしょう。

また、赤身が樹脂の成分が多いため、使い込んでいくうちに艶が出てくるのでフローリングなどにも適しています。しかし、心材は節が多くなるため、赤身で節の少ないものは希少なので市場価格も高くなりがち。多少、節があっても問題のないウッドデッキなどには赤身がお勧めです。

 

吉野スギと吉野ヒノキの違い

吉野スギと
吉野ヒノキの違い

ヒノキはスギと比べると、もともと成長速度が遅く、年輪の幅がさらに細かく目が詰まっています。昔から神社仏閣を建てるために利用されてきた木材で、大きな木が少ないため、市場価格ではヒノキのほうが3~4割高くなります。

実は、ヒノキの香りは「人の脳を活性化する」という効果があるといわれており、勉強や仕事の効率がアップするという効果が期待できることから、子ども部屋の内装材としてもお勧めです。一方、スギには癒しや誘眠効果があるといわれていることから、寝室の床材などは、無垢の杉フローリングを選ぶ方も増えています。

どちらがDIYに向いているかは、一長一短。スギは軽く、ヒノキと比べると柔らかいため、加工しやすいですが、ヒノキの色合いや匂いが好きな人もいます。湿気の多い場所で利用したり、汚れが気になったりする場合は、木の風合いを損なわないオイルで保護塗装するといいでしょう。

 

挽き直した奈良の木を購入できる製材所

挽き直した奈良の木を
購入できる製材所

実は、材木は放置されている時間が長いと、想像以上に変形していることがあります。

製材所に直接オーダーするメリットは、水が抜けて乾燥させたあと、変形の状態を確認して挽き直したものを購入できること。加工のしやすさだけでなく、本箱やテレビ台などを作ったあとの変形も少なくなります。要は仕上がりの差になって表れるというわけです。

製材するときに出る端材はDIYにぴったり。実際に製材所に直接足を運び、お手頃な木を見繕って購入する人もいます。事前に「こんなものを作りたいので、こんな木がほしい」と相談すれば、「ご要望に合わせた材木を準備しておきます」と石橋さん。せっかく訪れても、ちょうどいいものがみつからない場合もあるので、見積もりも兼ねて、事前に問い合わせましょう。

 

「吉野と暮らす会」が目指すこと

「吉野と暮らす会」が
目指すこと

吉野の製材所や木工の後継者などの若い世代が中心となって立ち上げた団体「吉野と暮らす会」。10年ほど前から活動を開始し、現在も6人のメンバーが中心となって、さまざまな試みを行っています。

地元、吉野中学校で子どもたち自身が「マイ机」を製作する「愛・学習机プロジェクト」は、生徒が3年間使う机を一緒に作り、卒業時は思い出の机を持って帰るというもの。

また、2016年「HOUSE VISION2016東京展」に出展された家を移築した「吉野杉の家」を、吉野材の魅力を体感できるゲストハウスとして運営しています。「吉野の木の魅力を多くの人に知っていただき、製材や木工など、吉野材に関わる仕事についても発信していきたい」と話す石橋さん。

現在は、コロナ禍で海外からの宿泊客が全く見込めない「吉野杉の家」。ワーケーションなどの要望にも柔軟に対応していく予定です。

吉野中央木材株式会社 専務取締役 吉野と暮らす会 代表 石橋輝一さん

吉野中央木材株式会社
奈良県吉野郡吉野町橋屋57
TEL:0746-32-2181

プロフィール

吉野中央木材株式会社 専務取締役
吉野と暮らす会 代表
石橋輝一さん

1978年生まれ。高校まで奈良県で過ごし、札幌で大学生活を満喫し、大阪の建築会社や東京の番組制作会社勤務を経て、27歳で吉野中央木材に入社。現在は、2019年に創業80周年を迎えた同社の3代目として、日々奔走中。吉野杉や吉野桧の魅力を多くの人に伝えるため、吉野杉異業種とのコラボやイベント・講演会の開催など、さまざまな活動を行っている。地元吉野の製材所や木工の後継世代が中心となった「吉野と暮らす会」 代表。